About Us

本研究プロジェクトでは、歴史学、水文学、気候・気象学の研究者が協働し、水と人との関係に着目して、新しいアジア史像を探っている。モンスーンと季節的降雨が広域にわたって大きな影響を及ぼすこと、域内の多くの地域が、海・河川・湖沼等からなる水系に囲まれた地形、すなわち「水圏」であるということという、域内社会経済を相俟って規定する水をめぐる二つの条件から、地域としてのまとまりをもったアジア史を構想すること(目的/Objectives)と、その為に、理工学系と人文社会科学系双方の学知を取り入れたデータベース(DB)の構築と分析を行うこと(研究手法/Methods and Disciplines)は、プロジェクトの二つの柱として結びついている。

Methods & Disciplines

自然環境と社会経済とが交差する新しい地域史を探求するにあたっては、人文社会科学系と理工学系の研究者が協働して、それぞれの分野で培われた知識と技法を動員することが不可欠である。本プロジェクトでは、中国、インド、東南アジア(タイ、ベトナム、ビルマ、インドネシア、シンガポール)をフィールドとする歴史研究者からなる歴史DBユニット(以下DBユニット)と、気候・気象学と空間・水文解析の研究者による空間解析ユニット(以下空間ユニット)が連携して、1、過去の気象・水圏の再現、2、自然環境と社会経済の連関の解明、3、各地点・各時点間の比較と検討、という三つの相互に連関したタスクに取り組んできた。

1. 過去の自然を再現する

自然環境と社会経済との関係の歴史的展開に考察を加えるには、人間社会だけではなく、自然についても、その動的変化を明らかにすることが求められる。そうすることで、環境決定論的な推論を避けることも可能になる。しかし、過去の自然環境・現象については、歴史データの限界もあり、従来の研究では必ずしも定量的かつ空間配置を特定しては把握されてこなかった。この課題に応えて、DBユニットでは、19世紀以降アジア各地で設置された気象局による気象観測記録だけではなく、これまで気候・水文関係の情報源としては利用されてこなかった海関報告(中国)や統計年鑑(タイ)を新たに重要な資料群として取り上げ、気温・降雨量や河川の水位・水量等ついて、日次・月次でのデータを抽出し、緯度経度からなる空間情報を付した空間情報DBを構築してきた。DB構築を踏まえて、空間ユニットでは、気候シミュレーションや水文・氾濫解析を応用して、時系列での変化や空間分布を含めて、自然環境・現象を再現する新たな分析手法を開発している。新たなデータ・ソースと手法を組み合わせて、従来明らかではなかった、歴史的なモンスーンの季節サイクル・年次変動とそこでの水圏の態様を再現し分析を加える。

2. 自然と社会を関係づける

自然環境と社会経済との連関を、どのように抽出し解明することができるであろうか。本プロジェクトでは、気候変動等の地球規模での問題に対応する過程で開発されてきた、ビッグデータ(各地域の様々な情報源に相互参照可能なメタ・データを付した上で構築した大容量のデータベース)の技法を取り入れている。また、自然環境と社会経済に関係する個別の問題に関する各地の情報を比較統合する為に、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)等を利用して、関連情報を緯度経度からなる位置に関するIDを持ったデータ(空間データ)としてデータベース(DB)化し解析を試みている。上に挙げた、「自然環境・現象」と併せて、「生産・生活」、「移動・流通」という三つの問題群に関する情報が、空間DBとして構築されてきている。空間IDを媒介として、自然と社会経済現象・活動を結び付け、分析を加えることが可能である。

3. 時空間の中に位置づける

各時点・地点における水圏と社会経済に関する実証研究については、異なる地点間や時間軸での比較検討を行う。例えば、時系列では、植民地統治の終焉・独立、革命と共産党政権の成立、といった各国の政治的画期による時期区分を離れて、長期の社会経済変動に考察を加え、それらの知見を踏まえて、それぞれの政体の統治について再検討する。地域間でも、農業・農村、都市・農村関係といった問題をめぐる、域内での共通性と多様性について考察を加える。時系列・地点間・問題群間の分析の組み合わせから、気候・水圏への対応から照射される近代アジア社会の構造と動態を明らかにしていく。

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