科学研究費基盤研究(S):近代アジアにおける水圏と社会経済 ― データベースと空間解析による新しい地域史の探求
水をめぐる人間社会と自然環境との交差から、地域の歴史を描き出そうとするとき、過去の自然に関する情報を収集し、分析可能なデータとして供すること自体が、重要な課題となる。そこでは、新しい資料を探索する、既存の史資料を別の角度から検討する、モデルやシミュレーションを応用してデータの間隙を推定・補完する、といった作業が不可欠である。ここに挙げたEssaysは、そうした研究プロジェクトの中核を成すデータや資料について紹介し、Interviewsは、それらを使った分析についても説明している。
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太田 淳
オランダ領東インド(以下、蘭印)における気象観測で中心的な役割を果たしたバタヴィア(現ジャカルタ)の王立地磁気・気象観測所(Koninklijk Magnetisch en Meteorologisch Observatorium)が刊行した、バタヴィアにおける観測の記録。1866年からの気圧、湿度、気温、降水量などについて時間ごと(hourly)のデータを掲載する稀少な資料である。
蘭印各地に設置された測候所で記録された降水量の観測資料。1879年の開始時はジャワを中心とする124カ所で計測されたが、その後はジャワ以外の地域でも測候所が増え、1900年には225カ所、1916年には581カ所にまで増加した。
以上2つの刊行資料は各地の大学図書館などでも部分的に所蔵されているが、ユトレヒトの王立オランダ気象学研究所(Koninklijk Nederlands Metrologisch Instituut, KNMI)でもっとも完備されている。2010-11年には同研究所とインドネシアの国立気象学地球物理学研究所(Badan Meteorologi, Klimatologi, dan Geofisika, BMKG)が共同で「歴史データ電子化プロジェクト(Digitisasi Data Historis, DiDaH)」を実施し、1850年以降の歴史気象データを電子化した 1。このうち1901年以降のデータは「東南アジア気候評価データセット(Southeast Asian Climate Assessment & Dataset Project, SACA&D)」として公開されている2 。それ以前のデータは、電子化はほぼ終了していもののデータ整理が今も続いており、公開には至っていない。(太田淳)
参考文献および上記データを利用した研究
Siswanto Siswanto, Geert van Geert Jan van Oldenborgh, Gerard van der Schrier, Rudmer Jilderda
and Bart van den Hurk, “Temperature, extreme precipitation, and diurnal rainfall changes in the urbanized Jakarta city during the past130 years,” International Journal of Climatology 36 (2016): 3207–3225.
R Kajita, “Historical precipitation data in Sumatra and Kalimantan from 1879 to 1900, by using Dutch colonial materials,” IOP Conf. Series: Earth and Environmental Science 361 (2019) 012003.
蘭領東インド政庁商工農部が刊行した年次報告。農業、商業、工業分野における当該年度の概況を様々な統計資料とともに説明する。農業については輸出作物についての説明が多いが、米をはじめとする自給作物についても言及がある。不作の原因の一部として、気象概況も触れられている。
蘭領東インド政庁商工農業部が刊行したジャワ、マドゥラ島の農業に関する詳細な地図および統計資料集。作物別および地域別のデータが示された、1916-24年頃における同地域の農業に関する不可欠の資料といえる。
1920年代前半のジャワ、マドゥラにおける農産物のなかでも特に現地消費される9種に焦点を当てた資料集。それらの収穫や耕地占有率などについて1920-25年の平均値を示し、一部の情報を月ごとに示している。データは地域別および作目別に整理されている。(太田淳)
参考文献および上記データを利用した研究
植村泰夫「1910年代末〜20年食糧問題とジャワ社会」『東洋史研究』57-3 (1998): 552-585.